判例紹介

2017.12.25

痴漢により逮捕されたことを理由とする諭旨解雇が無効であるとされた事例

1 懲戒については、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして、当該懲戒処分は無効とする。」と定められています(労働契約法15条)。

 

つまり、懲戒処分が有効であるためには、(1)就業規則に懲戒事由が定められており、根拠規定があること、(2)労働者が懲戒事由に該当する行為をしたこと、(3)社会通念上の相当性を有することが必要です。(3)相当性は、処分が重すぎるかどうかを、非違行為との比較、前例との比較、他の同種の例との比較を行って判断します。また、弁明の機会を設けるなど、適正な手続きが取られているかという点も考慮されます。

 

2 本件は、鉄道事業会社で勤務していた者が、電車内で痴漢行為(約5分間、14歳女性の臀部及び大腿部の付近を着衣の上から触る行為)を行って条例違反により逮捕され、罰金20万円の略式命令を受け、これを理由に、会社から懲戒処分の一つである諭旨解雇処分を受けたという事案であり、本件処分が無効であるかどうかが争われました。

 

本件について、裁判所は、たしかに、痴漢行為が許されないものであるし、鉄道会社が当時痴漢撲滅の取り組みを積極的に行っていたことを考慮すれば、鉄道会社以外の社員が痴漢を行った場合に比べて、一般的には悪影響の程度が大きいといえるとしました。
しかし、本件は、痴漢行為の悪質性が比較的低いものであったこと、本件痴漢行為はマスコミにより報道されておらず、社会的に周知されることはなく、本件行為に関して、会社が社外から苦情を受けたという事実を認めるに足りる証拠もなかったので、本件痴漢行為が与えた具体的な影響の程度は、大きなものではなかったこと、勤務態度には問題はなく、これまで懲戒処分を受けたこともなかったこと、弁護士に依頼して示談を試みたが、成立には至らなかったことなどの事情がありました。

 

裁判所は、これらの事情を考慮して、会社が、本件痴漢行為当時に痴漢撲滅に向けた取り組みを積極的に行っていたことや、当時駅の係員として勤務していたという点を考慮してもなお、懲戒処分として、諭旨解雇という身分を失わせる処分は重きに失するとしました。
また、本件では、会社から弁明の機会も十分に与えられておらず、懲戒手続の相当性にも看過しがたい疑義が残るとして、本件処分は社会通念上相当性を欠き、無効であると判断しました。

 

3 本件は、懲戒としてなされた諭旨解雇が無効であると判断された一例にすぎません。懲戒処分の有効性については、ケースによって判断がわかれるので、お困りの方は、一度弁護士にご相談下さい。

 

(東京地裁平成27年12月25日判決)

 

弁護士 清田美夏

 

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