判例紹介

2017.02.12

耐震診断と更新拒絶の正当事由

1 事案の概要
Yは、昭和23年ころから、本件建物を賃借し居住し、またタクシー事業者としての営業所としても登録していた。Xは、平成24年に本件建物を買い受け、買い受け後2ヶ月足らずで、Yに対し、本件建物が耐震診断も踏まえ老朽化が著しく建て替えの必要があるとして、6ヶ月後には賃貸借契約が解除される旨の通知をして更新拒絶の意思表示をした。Xは、通知後2ヶ月もしないうちに、明け渡し請求の訴訟を提起した。

 

2 「正当事由」の論点と裁判所の判断
本判決は、
建物の賃貸人による更新拒絶の通知は、

 

 (1)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、
 (2)建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに
 (3)建物の賃貸人が建物の明け渡しの条件として又は建物の明け渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、
 正当の事由があると認められる場合でなければすることができず、
 正当事由の有無の判断に当たっては、上記(1)を主たる要素とし、上記(2)及び(3)は従たる要素として考慮すべきであり、上記③については、それ自体が正当事由を基礎づける事実となるものではなく、他の正当事由を基礎づける事実が存在することを前提に、当事者間の利害の調整機能を果たすものとして、正当事由を補完するにすぎないと解することが相当である、として、従来からの借地借家法28条の解釈として裁判所が認めている考えをまず示した。

 

続いて、本判決は、上記(1)の当事者の使用の必要性について、Xは、本件建物の耐震性能に問題があるとして建て替えの必要があるところ、Yのみが明け渡しを拒み、土地の有効利用ができず、賃料収入に比較して高額の固定資産税等の支払いを余儀なくされていると主張したのに対し、固定資産税等の負担が著しく高額とまでは言えず、Xが本件建物にYが居住していることを認識して本件建物を購入したことも併せ考えれば、Xの主張する事情のみで、Xが本件建物を取り壊してその後の土地を利用する差し迫った必要性を認めることはできないとし、一方、Yは、本件建物に居住し生活の本拠とし、また個人タクシー事業を行い、その営業所を本件建物で登録し、本件建物を明け渡さざるを得なくなった場合、個人タクシー事業の営業を継続することは容易ではないといえ、転居すればYの生活にも影響を与える恐れがあり、Yには、本件建物の使用を必要としうる切実な事情がある、として従たる考慮要素である各事情について、それでもなおYの立ち退きを肯定すべき相当程度の事情が認められなければ、正当事由は容易には認められない、とした。

 

そして、従たる要素の判断として、「本件建物の現況」について、本判決は、耐震診断では東西方向では大地震動で「倒壊する可能性が高い」とされるが、南北方向では「倒壊しない」と評価され、また、本件建物が劣化等によってみるべき構造的欠陥が生じているとは認められず、耐震性能の改善が可能であることからすれば、耐震性能を理由に取り壊しが不可避であるとまでは認めることはできないとし、Xにおいて本件建物明け渡しにつき差し迫った必要性が認められないとして、正当事由があるとは直ちに認められないとした。

 

さらに、本判決は、「本件賃貸借契約に関する従前の経緯」について、XはYと同じ町内に昭和23年ころから居住し、本件建物の状況を認識していた上、Xは当初からYを立ち退かせ、新築建物を建築する目的で購入したと認められ、Yから立ち退きを拒まれる可能性を十分認識した上で購入したと認めることができるから、Y一人が明け渡しを拒んでいるからといって、Xの更新拒絶に正当事由があると認めることはできないとした。

 

本判決は、その他の論点にもふれているが、最終結論として、正当事由を肯定するに足りる事情は認めらないとして、Xの請求を棄却した。

 

3 コメント
耐震性の不足により耐震補強ではなく建て替えの必要性があると判断しつつ、具体的な建築計画がないとして、原告の明け渡し請求を棄却した判決もある(東京地裁平成27年9月17日判決)。また、耐震性能に問題があり建て替えの必要性は認めつつ、それだけでは正当事由を満たさず、一定の立ち退き料の支払いと引き換えに立ち退き請求を認めた判決もある。

 

耐震性能を理由に正当事由を認めた判決も過去にはある。東京地裁立川支部は、UR都市機構が、いわゆる公団住宅について、当初の耐震改修方針を経済合理性に反するとし改修を断念したとしてもその判断に非合理性はなく、居住者に対し「十分な代償措置」がとられていると認められる以上取り壊しの判断は相当としてURの立ち退き請求を認めた(平成25年3月28日)。

 

本判決は、Xが、建て替え目的で本件建物を購入し、耐震診断を根拠に明け渡しを求めた事案であるが、判決も指摘するように、長年居住してきたYが立ち退きを拒むことは十分承知して購入したという事実を重視していると思われる点が特徴と言える。

 

 

 

(東京地裁平成27年2月12日判決 判例秘書登載)

 

 

弁護士 佐伯雄三

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