判例紹介

2014.08.28

定額残業代として「営業手当」が就業規則で定められていたとしても、営業手当が実質的に割増賃金の支払いとはいえないとされた事例

1 定額残業代が定められていたら残業代請求ができない??
労働者は、法定時間外労働を使用者から命じられた場合、労働基準法37条が定める割増賃金を使用者に請求できます。
しかし、残業代が「営業手当」や「職務手当」などの定額手当に含まれていると主張して、残業代の支払いに応じない使用者・会社がいます。
定額手当に定額残業代が含まれると定めれば、それ以上の支払いに応じなくてもよいなどということはありません。このような主張をする使用者・企業は、サービス残業を助長させる、いわゆる「ブラック企業」といえるでしょう。

 

2 裁判例の判断内容
本件は、営業手当について就業規則に「割増賃金として月30時間相当分として支給する」と記載されていたところ、営業手当の支払いが残業代の支払いといえるか否かについて争われました。
本判決は、(1)実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価として性格を有していること、(2)支給時に支給対象の時間労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していることという2つの要件を必要とすると判断しました。
その上で判決は、本事例において、(1)の要件について、営業手当につき、売買事業部の従業員が顧客と面談する際にかかる諸経費をまかなう趣旨を含んでいたこと、他部署の従業員も時間外残業をしているにもかかわらず、営業手当は支払われていなかったことから、(1)実質的な時間外労働の対価とは認められないとされています。
また、(2)の要件についても、本件の労働者の時間外労働の時間及び残業代を計算した上で、営業手当の支給額以上の時間外残業代を支払わなければならないところ、差額の精算が行われないとして、(2)の要件を満たしていないとし、本件の「営業手当」は定額残業代の支払いとはいえないと判断しました。

 

3 その他の裁判例の紹介
その他、同様に(1)と(2)の要件をあてはめて判断した裁判例として、a)「営業手当」が割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分についての区別が明確となっていないから、割増賃金の支払と認めることはできないとして、営業手当が定額残業代として認めることはできないとした事例(東京高裁平成26年11月26日労働判例1110号46頁)、b)長距離トラックの運転手について「長距離手当」について、割増賃金としての実質を有するとは認められず、また長距離手当のうちで、割増賃金としての実質を有する部分とそれ以外の部分とを判別できないとして、長距離手当の支払いが割増賃金の支払いには当たらないとされた事例(名古屋地判平成28年3月30日)があります。

 
定額手当に「定額残業代」が含まれるからそれ以上残業代を請求できない、と諦める必要はありません。判断に悩む際には、弁護士にご相談ください。

 

東京地判平成24年8月28日(労働判例1058号5頁)

 

弁護士 守谷自由

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